東京ビッグサイトで開催された『VOLUNTAINER Meeting 2025~東京マラソン2025 みんなでつなぐサステナビリティ~』で3月1日(土)、トークセッション「東京マラソン2025でLGBTQ+からインクルーシブを考える勉強会」を実施しました。
トークセッションには、東京マラソン2025より一般ランナーエントリーの性別カテゴリーに追加された「ノンバイナリー」として出走したカル・カラミアさん、東京マラソン財団がスポーツイベントにおけるダイバーシティの促進について協定を締結しているプライドハウス東京スポーツチームの野口亜弥さん、ドラグァクイーンのラビアナ・ラベイジャさんが参加しました。
■自分が大好きなことを自分らしく参加できるようにしたい
ラビアナ 東京マラソン2025にランナーとして参加するカラミアさんにまずはお話を伺いたいと思います。ノンバイナリーランナーとして今回の東京マラソンにどんな想いがありますか?
カラミア 私にとってノンバイナリーは非常に大事なことです。私は小さいころからずっと走ってきました。ノンバイナリーやトランスジェンダーという言葉を知るよりもずっと前から走っていました。そして、自分のことがより多く分かるようになった時に、自分らしくスポーツに参加する場所がないことに気が付きました。そのため、これまでノンバイナリーの場所を作ってほしいと私は訴えてきました。自分が大好きなことを自分らしく参加できるようにしたいという思いで、これまでノンバイナリーの部門を作る活動に参加してきました。走ることが好きな人であれば、男女問わず、どのような形であっても走りたいわけですし、しかも走ることが大事なのであればそれを選択することはそもそも関係ないはずなのですが、男女のカテゴリーのどちらかを選ばなければならない。どうせ決めるのであれば、自分に関してより正確に表すことができるカテゴリーが必要だということで、私にとっては非常に大事なことです。
ラビアナ ありがとうございます。今回、ノンバイナリーのカテゴリーができたことにあたって、たぶん色々なチャレンジもあったのかなと思います。野口さんにお聞きしたいのですが、東京マラソン財団と協議を重ねていく中で、ここが嬉しかったとか、逆にここはまだチャレンジが必要な部分、あるいは課題として残っている部分などはありますか?
野口 嬉しかったことと言えば、やはりノンバイナリーというカテゴリーをしっかり作ろうということで東京マラソン財団の皆さんが議論を重ねて、プライドハウス東京の方にもヒアリングをしてくださいました。そうして作っていく過程の中で、私たちプライドハウス東京のような当事者を巻き込んで議論してくださったということは本当に嬉しいことだなと思っております。
これからだなと思っているのは例えばスポーツでもよくあることなのですが、コーチが男の子・女の子と見た目で判断して「○○くん」「○○ちゃん」と呼び分けてしまう。また、プライドハウス東京は企業さんとも色々とやり取りがあるのですが、企業さんから「トランスジェンダーと思われる方が来店したのですが、トイレをどうやって説明したらいいですか?」という話があったりもします。やっぱり人って、見た目によって「男」と「女」を無意識のうちに見分けてしまっているところがあります。ご本人が自分の性別をどう思っているのかなと確認できていない中で、勝手に判断してしまうことがある。そのように見た目によって男か女の2つのカテゴリーのどちらかに分けられてしまうことにずっと苦しんできたのがノンバイナリーの方々なのかなと思うところもありますので、そういうところを一つひとつ浸透していくように、これからプライドハウス東京も東京マラソン財団さんと一緒にアクションしていければと思っています。
■自分の経験、ストーリーを伝えることが大事
ラビアナ やはり「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」というジェンダーバイアスがまだまだ強いスポーツ業界だと思うのですが、体を動かすことだったり、競技を楽しむことって、本来だったら性別関係なく誰もが楽しめることであるべきだと私も感じていて、そこで今回のように(カテゴリーが作られれば)当事者の方からすると、すごく助かる。自分が救われる気分になると言いますか、自分がちゃんと存在するんだなという証明にもなります。一方でノンバイナリーの当事者でない方に関してはたぶん、ほとんど何も変わらない、通常通りだと思います。
カラミアさんにお伺いしたいのですが、ノンバイナリーや性とジェンダーの多様性に関してアクティビストとして活動されている中でどういうふうに伝えたり、理解してもらうように気を付けているのでしょうか?
カラミア はい、たくさんの誤解がトランスジェンダーやノンバイナリーの分野にはあると思います。特にアメリカではメディアにおいて様々にネガティブなことが報道されていると思います。ですので、私がこの活動において伝える上で重要にしていることは自分の経験、自分のストーリーを伝えることだと思っています。やはり人間というものは自分とは違うものに対して距離を取ることがあると思うのですが、私の場合は自分の弱い部分などを語ることによって周りの人たちの理解を得たり、共感を得ることが大事だと思っています。誤解されているということですので、私たちが自分たちの手にマイクを取って、そして自分たちの言葉で語りかけることによって共感を得られると思っています。活動の中で大切にしていることは愛であったり、共感であったり、それから自分のストーリーを伝えるということ。それをすることによって、実は私たちはそんなに違うものではなく、共通点がたくさんあるんだということに気づいてもらえると考えています。
ラビアナ 実はこの会場の中に入ってから、ノンバイナリーやドラァグクイーンって聞いたことはありますか?と質問していて、参加型の勉強会にできたらと思っています。皆さんも一緒に参加してください。運動やスポーツが好きな人は手を挙げてください。(会場から手が挙がる)ありがとうございます。ではマラソンを走るのが好きな人、見るのが好きな人は手を挙げてください。(会場から手が挙がる)ありがとうございます。では、ご自身がマラソンを走り終えた後のビールが美味しいと思う人は手を挙げてください。(会場から手が挙がる)ここでもう共通点がいっぱいあるじゃないですか。なので、そういう気持ちを持って話を聞いたりとか、会話をするということがすごく大事なのかなと。そうするとジェンダーとか性別というのが関係なくなる。 やっぱり共通のスポーツを楽しむということがすごく大切なのかなと思っております。
それでは、また野口さんとお話をしたいと思います。プライドハウス東京には私もよくお邪魔していて、すごく過ごしやすいと言いますか、充電もできて、Wi-Fiもあって、お茶も出してくれて(笑)、あと、ジェンダーの本がいっぱいあるんですよ。まだプライドハウス東京に来たことがないという人に向けて、何かひと言、ピーアールはありますか?
野口 プライドハウス東京レガシーは新宿御苑が一番近いのですが、新宿で降りても10分、15分ぐらい歩けばすぐに到着するところにあります。分かりやすくプログレス・プライド・フラッグが出ています。当事者でなければ行っちゃいけないのかなと思われてしまうのかもしれないですが、「LGBTQという言葉をちょっと聞いたぞ」「もうちょっとお話を聞いてみたいな」「もうちょっと調べてみたいな」と思ってくださるアライ(LGBTQ+当事者と一緒にアクションをしてくれる人)方々も大歓迎です。もしプライドハウス東京に来ていただけたら、飲み物もありますし、wifiもありますし、充電もできるので(笑)のんびり過ごしていただくことができます。プライドハウス東京レガシーのスタッフ誰もが安心できる居場所づくりを心掛けて運営してくれています。LGBTQ+に関する色々な本もたくさんあります。もちろん、漫画みたいに読みやすい本もありますし、ユースやスポーツのプロジェクトで作った冊子なども置いてありますので、そういった情報に触れてスタッフの人たちと話すことができるということもプライドハウス東京レガシーの魅力かなと思っています。ですので、もうちょっと学んでみたいと思う人がいてくれたら、ぜひプライドハウス東京レガシーにお立ち寄りいただけると嬉しいなと思っています。
■LGBTQ+を取り巻くアメリカの現状
ラビアナ ありがとうございます。では、またカラミアさんにお話をお戻ししたいと思います。カラミアさんもノンバイナリーの当事者として、またランナーとして色々な大会に出場されていると思いますが、大会を通してノンバイナリーの方も含めて他のランナーと交流していると思います。今まで経験した中で、ノンバイナリーの当事者としてこういう活動をしていて良かったなと思ったエピソードなどはありますか?
カラミア 全体的にランニングが大好きなので、ランニングのレース、イベントに参加すること自体が私にとって非常に幸せなことです。サンフランシスコではノンバイナリーランニングクラブを立ち上げまして、今、仲間が2人参加してくれています。そうした仲間たち、アイデンティティを共有する人と一緒に走ることは非常に特別なことだと思います。トランスジェンダーやノンバイナリーの人は"自分たちのチーム"がない人が多いわけですよね。男性チーム、女性チームに分けられてしまい、"自分のチーム"がないと思ってしまうわけですが、こうした活動を通じて「自分にも所属するチームがあるんだな」と感じることは心理的にも、社会的にも素晴らしいことだと思います。こういった活動に参加することは心と体のウェルビーイングに繋がっていると思います。世界的にも暴力などを通じて我々の存在が消されてしまうということもあると思いますが、こうしたレースに参加することによって自分らしく、自分の好きなことに取り組めることは素晴らしいと思います。
ラビアナ ありがとうございます。今、触れていただいたのですが、カラミアさんはアメリカのご出身で、今のアメリカの政治事情はすごくリスクがあると言いますか、とても繊細で、性的マイノリティの方たちの生活が脅かされている状況だと思うのですが、カラミアさんはノンバイナリーとして生きている中で、アメリカで感じるリスクやそれにどう挑戦していこうと考えていますか?
カラミア 特にアメリカでは非常にチャレンジングな時代をトランスジェンダー、ノンバイナリーの人たちは生きていると思います。ただ、私はサンフランシスコに住んでいますので、比較的安全で受け入れられているなと感じています。ですが、分断がないわけではありませんし、私の家族においても、別の地域に住んでいますと自然と考え方も違ってきますので十分に受け入れられていないと感じますから、その点でもチャレンジングでもあると思います。
ただ、私の期待と言いますか、楽観できることと言えば、自分と同じアイデンティティをともにする人たちと一緒に時間を過ごすということだと思います。一緒に時間を過ごすと繋がりを感じられますし、自分のありのままが拒絶されるのではなく、祝福してもらえるんだと感じることはとても大きいですね。
それから、今回のイベントのようにグローバルに会話が進んでいることも私にとっては素晴らしいことでして、お二人と一緒に壇上でこのテーマについて話し合えるということは素晴らしいと思います。アメリカで例えネガティブなことが報じられたとしても、私たちがいなくなるわけではありませんし、世界中の方々と一緒に活動を続けていけるということは非常に貴重なことで、ありがたいことだと思っております。
■若い世代へ「あなたはありのままで愛されるべき人なんだよ」
ラビアナ 今、アメリカではまさにそれを経験しているのかなと思いますが、社会の中から可視化されなくなってしまう状況って、すごく悲しいこと。やっぱり人間って、社会的な動物だなと私は思っています。私も色々な場所でショーやパフォーマンスをしている中で、やっぱり人と人との繋がりと言いますか、コネクションで成り立っている。それがなくなってしまうと本当に怖いな、自分が存在しなくなってしまうんじゃないかなと感じているので、今日来てくださった皆さんはすごくありがたいですし、この会話の一部になってくれることはすごく大切だなと私は思っています。
また野口さんにお伺いしたいのですが、スポーツとジェンダーという分野において、プライドハウス東京を含めて今後に期待している未来、希望について聞かせてください。
野口 スポーツというものがもちろん一つの軸ではあるのですが、プライドハウス東京自体は色々なプログラムを実施していて、なおかつユースに力を入れて活動している部分もあります。つい昨日、当事者ユースの子たちがスポーツや体育の現場で感じているモヤモヤや、嫌だなと思っていることをディスカッションして、それをショートビデオにしてInstagramにアップして、みんなでアスリートと対談するということをやっていました。常にユースのメンバーがプライドハウス東京で色々なプロジェクトに関わって活動しています。やっぱり未来のあるユースの子たちが生きやすく、自分らしく生きていける社会をプライドハウス東京としてはしっかりバックアップして、一緒に作っていくということが何よりも必要なのかなと今は思っているので、そういうところにプライドハウス東京としては力を入れているところかなと思います。
カラミアさんもユースのプロジェクトを持っているとお聞きしましたので、聞いてみたいです。
ラビアナ そうですね。カラミアさんもユースの子たちを集めてグループで活動されていると思うのですが、カラミアさんが見る未来の姿、ユースの子たちに対してのメッセージ、思いをぜひお伺いさせてください。
カラミア 若い人たちに向けたメッセージとしては、「私たちはここにいる」と。「君たちのための仕事をしているんだ」と伝えたいです。皆さんも子どもたちが自信を持って成長できるように、できる限り安全な場所を作っていただいていると思います。私たちの活動は止まることはありません。それを訴えていきたいと思います。
実は私は5年間、高校で教師をやっておりまして、今はNPOを運営しているのですが、その中で性別適合リソースなどを提供しております。例えば、遠くはスリランカから近いところですとロサンゼルスまで、チェストバインダーという胸を押さえる道具を送っています。そして、私たちは家族からの理解が得られないい人たち、金銭的な手段のない方々を支援するサポートを行っております。若い人たちへのメッセージとしては「あなたはありのままで愛されるべき、祝福されるべき人なんだよ」ということを訴え続けていきたいと思っています。
ラビアナ 少しだけ補足をしますと、やはり自分の体に違和感を持っている若い方々は性別適合手術を受けるとか、ホルモン療法を受けることへのリソースが社会的にも経済的にもない方たちが多いと思います。そうしたユースの方たちに対して、胸をフラットにするバインダーだったり、股の方をフラットにするようなものを配布していて、一番遠い場所だとスリランカまで送っているとのことです。
我々がたぶん、思いもしないところに実は当事者っていますし、もしかしたら皆さまのすぐ近くにも当事者の方はいるかもしれない。そういうことを本当に考えていただきたくて、今回のような機会はすごく大事ですし、知識とか教育ってすごく大事なものですので、今回参加いただいた方は本当に嬉しいです。
では最後に、カラミアさんも明日走ると思うのですが、東京のランナーたちやVOLUNTAINERの方に向けて、何かひと言いただければと思います。
■日本でもLGBTQ+のことをもっともっと伝えたい
カラミア ありがとうと伝えたいです。明日は早く走りたいと考えていますが、VOLUNTAINERの方々がライトを持ったり、声援だけでも投げかけてくれることを非常に心強く感じます。明日はお時間を取っていただき、VOLUNTAINERとして参加していただけることを非常に嬉しく思います。
ラビアナ ありがとうございます。野口さんからもひと言頂ければと思います。
野口 今日、私は会場の中に入ってどこに行けばいいんだろう?と思っていたら、すぐにVOLUNTAINERの方が「どちらを探していますか?」と声をかけてくださいました。みなさんが本当に親切で、そういった方々のおかげでこの大きな大会が運営されているのだと思っています。私も2年前の2023年に東京マラソンを走らせていただいたのですが、ボランティアさんには感謝しかないなと常々思っております。
あと、プライドハウス東京としては東京マラソン2025チャリティの寄付先団体のひとつで、寄付をいただきチャリティランナーとして出走いただいているランナーがいます。そして、95、6%が海外のランナーさんなんですね。色々と法整備などが日本の中で進んでいない現状の中、LGBTQ+の常設のセンターを運営していくことって、とても金銭的にも難しくて大変なところがあるのですが、海外ランナーさんがLGBTQ+の当事者として連帯してくださって寄付をしてくださる。その寄付のお金が、プライドハウス東京が運営できている一つの大きな原動力だなと思っていますので、そこにも感謝していますとともに、やっぱり日本の方々にLGBTQ+のことをもっともっと伝えて、もっともっと仲間になってもらわなければいけないなと思っています。そういうところもプライドハウス東京として頑張っていきたいなと思っております。
ラビアナ:ありがとうございます。今回は、なんとボランティアの方がいらっしゃるということで、心から感謝申し上げます。今回の勉強会はこれで終わりですが、今日聞いたことをぜひ周りの友達とかに共有していってほしいなと思います。今日ご登壇いただいた野口さん、カラミアさんにもう一度大きな拍手をいただければと思います。ありがとうございました!
【終わりに】
大会当日ノンバイナリーで参加したカラミアさんは完走後、「東京マラソンにノンバイナリーが追加され、本当に嬉しく思います。トップフィニッシャーとして祝福され、光栄でした。参加の機会をくれた東京マラソンに感謝し、とても誇りに思います」と話してくれました。
東京マラソンは2027年に20周年を迎えるにあたって、「世界一安全・安心な大会」「世界一エキサイティングな大会」「世界一あたたかく優しい大会」にするという目標を掲げています。ランナー、ボランティア、観客など色々な形で参加する人たちがこのような話を知ることで、一歩ずつ、目標とする大会に近づけると考えています。誰でも自分らしく参加できる大会が継続できるように、皆さんと一緒に未来へ大会が継承できるように、引き続きのご理解・ご協力をお願いします。
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